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日本最古ロシア・ビザンチン大聖堂、松室重光の代表作を特別案内

京都ハリストス正教会

京都 | 烏丸御池

開催概要・申し込み

京都に、日本ではきわめて珍しいロシア・ビザンチンを受け継ぐ大聖堂があることを、ご存知でしょうか?現存する正教会の本格的な聖堂としては日本最古、その価値の高さから2022年には国重要文化財に指定され、今も現役で使われている「生きた建築」です。今回の建築ツアーでは、普段は立ち入ることのできない聖堂内部を特別案内。ロシア本国でも数少ない帝国王朝時代の壮麗な意匠は、まさに圧巻です。明治時代、京都から建築のスタンダードを生み出した建築家、松室重光の代表作。ロシア生まれの大聖堂と日本技術の融合による建築美を、ぜひ全身で体感してください。

建築プロフィール

●1903年(明治36年)完成

●現存する日本ハリストス教会の大規模な木造聖堂の中では最古の建築

●正式名称:京都ハリストス正教会生神女福音聖堂

●実施設計:松室重光

●2022年2月に国重要文化財に指定

1. 屋根の「玉ねぎ」がその証。貴重な正教会建築に特別訪問

注目すべきは塔の後ろ側にある、目を引く玉ねぎ型

京都の街並みに突如として現れる「京都ハリストス正教会」。普段、京都を歩く人なら、その佇まいに目を奪われたことが一度はあるはず。現在も現役の教会として使われているため、普段その内部は一般公開されておらず中に入ったことのある人は京都人でも数少ないのではないでしょうか。

建物に近づいていくと真っ先に目に入るのは、正面にそびえ立つ八角塔の部分。横に回り込んでみると、その後ろに連なる緑色の屋根にまるで玉ねぎのような、丸みを帯びたモチーフが乗っているのが目に入ります。数々のモダン建築がひしめき合う京都でも、このような顔立ちの建物に出合うことはめったにありません。

正面の高い塔には鐘が格納された「鐘楼」が。鐘は今も現役で鳴らされている。タイミングが合えば、ツアーの中で聴くことができるかも。

まさにこれがロシア・ビザンチンの建築の特徴です。玉ねぎ型の屋根はクーポルと呼ばれ、祈りが天に昇っていくようなロウソクの形をイメージしているとも言われています。ロシア・ビザンチンを下敷きにしながらも、シベリアなど開拓地にも建てていくために、大胆にアレンジが加えられています。

外壁は当時一般的に使用されていた「下見板張り」。ロシア開拓地の精神を受け継ぎ、かつ日本の風土や当時の建築事情に合わせた工法が採用されている。

屋根の上の十字架。上下2本の線は何を意味する?

玉ねぎ型の屋根の上には十字架が。よく見ると、十字に2本の線が加えられた、見慣れないかたちをしています。

これもまたロシア正教会の証のひとつであり、シンボルとして用いられている「八端十字架(はったんじゅうじか)」と呼ばれるものです。
上の部分の短い横棒は、イエスキリストの罪状が書かれたプレート。下の斜め線は磔の際に足を乗せた台であり、上向きになっている方は天国を、下向きになっている方はその逆を示しています。

京都市の文化財保護技師であり、京都ハリストス正教会の重要文化財指定にも尽力した石川祐一さんはこう語ります。「外観からもその威容は異彩を放っていますが、その真価を存分に体感できるのは、聖堂内部の祈りの空間です。日本の近代建築史で非常に重要な聖堂として位置づけられる名建築を、隅々まで堪能してほしいですね。」

2. 壮麗な「イコノスタス」に秘められた”隠し扉”を探せ

これぞ正教会の醍醐味、「イコノスタス」

創設当時からこれまで修復などが行われることは一度もなく、現在も完成当時と変わらぬ姿を見ることができる

入ってすぐ正面に現れるのは、ずらりと並んだ鮮やかな聖画のパネル。聖像が彩る圧巻の迫力に、思わず息を呑みます。

圧倒的な存在感を放つこの壁の名は「イコノスタス(聖障)」。洗礼を受けた信者が祈る「聖所」と、聖職者が祈りを捧げる「至聖所」とを隔てる衝立のような役割を果たします。 このような壮麗かつ豪奢なイコノスタシスを見ることができるのもロシア正教会ならでは。

イコノスタスの向こうに広がる至聖所は、聖職者のみが入ることを許された場所。イコノスタス上部に少しだけあいた隙間から、その奥に広がる神聖な空間を感じてみてください。

特別なときにのみ開く中央の扉。では普段はどこから入る?

まるで壁のように見えるイコノスタスですが、聖職者は普段どのように至聖所に入るのでしょう。

中央の扉のように見える部分。こちらは特別な祈祷のときにのみ開かれる天国の門で、普段は人間が通ることはできません。実はほかにふたつ、人が通るための”隠し扉”が設けられています。よく見ると、ほんの少し隙間があいているので、現地で一緒に扉を探してみましょう。

”天国の門”にステンドグラス越しの光が差し込んだ様子。時刻によって変わる光の芸術を体感してほしい

こんなはずじゃなかった(?)サイドが折れている理由

イコノスタスの前に立ってみると、美しい絵画に包まれているように感じられます。実は、京都ハリストス正教会のイコノスタスは、両サイドが少し折れ曲がった状態で配置されています。本来、イコノスタスは折り曲げることなくまっすぐ置かれるもの。では、なぜここでは、このように折り曲げることになったのでしょうか。

その秘密はこのイコノスタスの誕生秘話にありました。イコノスタスを含めて、聖堂内にあるシャンデリアや祭具などは、聖堂建設時にロシア・モスクワで製作され、運ばれたもの。いざ日本に届いたイコノスタスですが、製作時に寸法を間違えて建物の幅より約35センチ長くなってしまい、入りきらなかったために曲げて置くしかなかったのだとか。

京都ハリストス教会の及川信司祭は、こう語ります。「ロシアでは革命で教会が破壊されたため、本国でもほとんど残っていない、世界的にも貴重な帝国王朝時代の文化財です。先人たちが守り継いできた思いを感じてもらえたら」

偶然が重なって生まれたこの感覚は、京都ハリストス正教会ならでは。ぜひ現地で目の前に立ち、じっくりと体感してください。

3. ロシア生まれの京都製。精緻な作りを可能にした職人技巧

国内随一の完成度。立役者は西洋建築のスペシャリスト

ロシアからやってきたイコノスタスや祭具などの壮麗さはもちろんのこと、建築に施された細やかな意匠も、京都ハリストス正教会ならではの注目ポイント。柱にあしらわれた装飾や照明の根元のレリーフをじっくり見ると、その繊細で美しい仕事ぶりに思わずため息が出ます。

ロシアから正教会の布教にやってきたニコライ主教は、正教会の”建築雛形図面”なるものを持参していました。日本各地にいる、聖堂の建築様式に詳しくない地元の建築士や大工だけでも聖堂建設を可能にするためです。京都ハリストス正教会において特筆すべきなのは、そんな雛形図面に基づいて建てられた日本の他の聖堂と比べ、細部の装飾に至るまで、西洋建築のディテールを取り入れて作り込まれていること。

なぜこれほど細部に至るまで、西洋建築らしい意匠を施すことができたのか。その理由は、建築家・松室重光が実施設計に携わったためでした。様式建築の名手として知られた京都最初期の建築家、松室。彼の関与があったからこそ、西洋建築のエッセンスが細かな装飾にまで取り入れられ、日本の正教会の建物として随一の完成度に至ることができたといっても過言ではないでしょう。

ニコライ主教が持参した雛形図面には、細かい意匠デザインの指示がそれほどなかったため、西洋建築でよく用いられる装飾を組み合わせて松室がデザインした

大理石を〇〇で再現。日本職人の工夫と技術

イコノスタスの下の部分に、灰色の大理石のようなものが嵌め込まれていますが、この部分はロシアで作られ運ばれてきたイコノスタスに、あとから日本で付け加えられたもの。

一見、大理石のようなこの部分、日本の職人が木材に大理石の模様を描いて、大理石の風合いを再現したものなのだそう。当時の日本の技術と材料で、正教会建築にふさわしい重厚感をいかに実現するか……まさに工夫の結晶と言えるでしょう。

木造の建築にも関わらずドーム型の天井を実現できているところにも、建築技術の高さがうかがえる

 遥か遠く、異国の信仰文化に思いを馳せる

ロシアで育まれた聖堂建築がシベリアの大地を渡って京都に伝わり、松室重光という名建築家の手によってこの地に建つこととなった京都ハリストス正教会。全国の正教会の中でも類稀なる建築美と歴史の厚さについて、及川信司祭は、こう語ります。「戦争や自然災害をくぐり抜け貴重な建築が守り継がれたのは、京都という町だからこそ。新しい文化や世界観を受け入れ、熟成させることができるのが京都だと思います」。

先人たちの思いを受け継ぎ、建築を残していく未来をつくっていくこと。そのためにまず知ること、全身で体感すること。この建築ツアーも、その一歩となることを願っています。

  • 参考文献

    • 石川祐一「京都ハリストス正教会生神女福音聖堂の建築経緯について」(『京都市文化財保護課研究紀要 創刊号』 2018年3月)
    • 石川祐一「ハリストス正教会の聖堂建築における設計図面集の役割について」(『京都市文化財保護課研究紀要 第4号』 2021年3月)
    • 京都ハリストス正教会(石田潤一郎監修)「京都市指定有形文化財 京都ハリストス正教会生神女福音聖堂 建造物調査報告書」(京都ハリストス正教会 2021年9月)

企画:建築ツーリズム事務局
執筆・編集:河井冬穗、窪田令亜(合同会社バンクトゥ)
写真:原祥子
監修:石川祐一、及川信

開催概要・申し込み

【参加費】 1,800円(税込) ※参加費の一部はハリストス正教会の維持活用に役立てられます

【定員】 10名

【所要時間】 45分

【コースルート】 ハリストス正教会(外部・内部/啓蒙堂および聖堂) → (解散)

【言語】 日本語

【建築情報】 京都ハリストス正教会 竣工年|1901(明治34)年 落成年|1903(明治36)年 用途|教会 構造・規模|木造・地上3階 設計|松室重光 文化財情報│重要文化財

【公式サイト】 https://kyoto-orthodox.or.jp/

【連絡事項】 写真撮影:外観のみ可。内部は撮影不可 ブログ・SNS上での公開:可 使用可能なお手洗い:あり

※ツアー開始10分前までに集合場所にお越しください。
※雨天決行です。
※写真撮影:撮影・SNS投稿ともに外観のみ可。内部は撮影不可。また、他の参加者や一般の利用者が写り込まないようご注意ください。
※ガイドや他の参加者の様子を撮影・録音・録画することはお控えください。
※中学生以下は、保護者1名につき1名まで同伴無料。2人目からは「大人(高校生以上)」の参加費が必要です。

例:
大人1名+お子さん1名同伴の場合…「大人(高校生以上)1枚」「子ども(中学生以下)1枚」でお申し込みください。
大人1名+お子さん2名同伴の場合…「大人(高校生以上)2枚」「子ども(中学生以下)1枚」でお申し込みください。
大人2名+お子さん2名同伴の場合…「大人(高校生以上)2枚」「子ども(中学生以下)2枚」でお申し込みください。

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