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武田五一が手がけた迎賓館へ、大正ロマンの洋館を特別案内

五龍閣

京都 | 東山

開催概要・申し込み

清水寺のすぐ近く、“関西近代建築の父”武田五一が手がけた迎賓館「五龍閣」をご存知でしょうか?国の登録有形文化財にも登録されているこの建物は、京都から世界企業の礎を築いた事業家、三代目松風嘉定の邸宅として大正9年頃に建てられました。なぜ古代寺院のような“鴟尾”が、こんなにたくさんあるのでしょうか?十数年ぶりに姿を現した、美しき床タイル。消えた風見鶏はどこへ?普段は立ち入ることのできない2階広間や最上階の望楼まで、特別案内。新時代を切り拓いた貴重な名建築、絶景を求めて近代に花開いた東山の邸宅文化を、ぜひ全身で体感してください。

建築プロフィール

●1920年(大正9年)頃完成

●名称:五龍閣(旧松風嘉定邸)

●設計:武田五一

●1999年2月に国の登録有形文化財に登録

1.京都ならでは、和と洋とモダンの融合に触れる

清水寺へと続く「清水坂」の中腹に佇む「五龍閣」。京都の伝統産業である清水焼の窯元から、その技術を洋食器や義歯の製造に展開させた三代目松風嘉定の邸宅として建てられました。株式会社松風は現在、人工歯で日本トップシェアを誇る世界企業。近代化が加速した大正時代、松風嘉定の手がけた事業は、京都が産業基盤を固めていく一翼を担ったものといえるでしょう。

京都を代表する事業家の迎賓館、和洋の意匠にクローズアップ

そんな京都を代表する事業家のひとりである松風嘉定の邸宅。竣工当初は今に残る洋館の他、和館部分も存在していました。和館と接続するかたちで建てられた洋館部分が、現在の五龍閣にあたります。洋館は客人をもてなす迎賓館の役割を担っており、大正時代の一大イベント「東山大茶会」の会場としても使われていたのだそう。

外壁は一見すると、石造りの洋館のような印象。西洋建築の基本である「基壇、胴部、頂部」の三層構成を踏まえており、縦長窓や出窓(ベイウィンドウ)、ステンドグラスなどの意匠も見られます。

しかし、建物を隅々までじっくり見て気がつくのは洋館に溶け込んだ和の要素。洋館らしい急勾配の屋根には和瓦が並び、古代寺院や宮殿を彷彿とさせる「鴟尾(しび)」が棟飾りとしていくつも据えられています。研究者としても知られる武田五一が、清水寺など周囲の寺社世界との地続きを意識して古代的な意匠を採用、繰り返し配置することでデコラティブに演出したのでしょうか。

柱や梁のデザインにも注目。ギリシャ神殿に見られるオーダーを崩したような不思議な柱のうえに、日本建築の梁や束のような意匠が見られます。梁や束は本来木材を用いますが、それらを石材風に見せており、和と洋を入れ子構造のように融合させています。

特筆すべきは、この石造りに見える建物が、「木造」であることです。一見するとロマンあふれる洋風建築ですが、その核には、伝統的な日本の大工技術による仕事があるのです。

「関西建築界の父」が実現した”日本式”モダン建築

次は、装飾模様に注目してみましょう。洋風建築の装飾といえば、植物や貝などのモチーフを多用したものが思い浮かびますが、五龍閣の軒下や窓周りには、丸や四角といった幾何学模様が整然と並んでいます。これらの円の連なりや直線的な構成は、当時の伝統的な和風・洋風装飾のどちらにも属さない、極めてモダンなものです。

2階のベランダには寺社や城に用いられる唐破風を扁平にしたような小屋根が。中央のカーブは、モダンな洋館に馴染むよう、絶妙な具合に計算されています。

これこそが、19世紀末のウィーンで興った「セセッション(分離派)」の影響です。伝統的な様式からの脱却を目指したこの運動を、五龍閣をはじめとする日本の建築で実践したのが、武田五一でした。イギリス留学時代、ヨーロッパで隆盛した本場のセセッションを目の当たりにした武田五一。帰国後は単に西洋建築を模倣するのではなく、日本の伝統的な文脈も取り入れつついかにセセッションを実践するかを追求したことを、彼の手がけた建築から見てとることができます。五龍閣は、武田が日本流のセセッションを体現した、新時代の意志のあらわれなのです。

当時使われていた玄関の扉。丸と直線で構成されたモダンなデザインは、ついつい見入ってしまう美しさ

2. 天井から床まで見回したい。西洋とモダンが溶けあった内部空間

1階広間の重厚なドアは、数寄屋造で珍重されるケヤキの玉杢材が用いられています。クラシックな洋風に感じられる空間にも、日本を代表する木材が使われています。

幾何学模様をふんだんにあしらった天井飾りが2つも。隣接した部屋に比べて格式高い部屋であったことが見て取れます。

そして、大きな窓ガラスで囲まれたサンルーム。嵌め込まれたステンドグラスが鮮やかな光を落とし、思わずため息が漏れるほどの美しさ。床には、なんと近年の発見により、十数年ぶりに姿を現したカラフルなモザイクタイルが。もともとは、居室とは異なり、靴を履いて外部空間のように使用していたと考えられます。

伝統からの解放を感じるダイナミックな階段室

この邸宅のハイライトのひとつが、2階、3階へと続く階段室です。階段には重厚な迫力がありつつ、空間としては軽やかさを感じるのが不思議です。ここは、武田五一の空間構成の妙が大胆に表現された場所と言えるでしょう。
迎賓空間の中心を占める階段室は、壁から張り出した構造や天井から吊る造りを複雑に組み合わせた設計によって、階段が宙に浮いているかのような浮遊感を帯びています。邸宅だった当時は、この階段から2階にかけて続く壁に多くの絵画が飾られ、邸宅の主人であった松風の私的なギャラリーとしての役割も果たしていたそうです。

空間の格式を天井から推理してみて

通常は立ち入ることのできない2階フロアへ上がると、1階とは打って変わって和と洋が交じる空間が広がります。現在は大きな一間となっていますが、元々はふたつの部屋に分かれていたというこの空間。天井や壁のデザインから、かつての部屋の境界線が推測できるので、現地で一緒に探してみましょう。

手前のマス目のような天井は、格子状に組まれた「格天井(ごうてんじょう)」と呼ばれるもの。そのなかでも、周囲から一段高く盛り上げさらに中央を上げる「二重折り上げ格天井」を思わせます。御殿や寺院など格式高い建物で用いられる天井形式で、それを武田はそのまま再現するのではなく、アレンジすることでモダンな印象を与えたのです。

さらに、それぞれの壁面に目を向けると「柱と壁の関係」が面白いことに気づきます。入って左奥の空間は洋風建築らしく柱など構造部材を隠すかたちで壁がつくられていますが、庭に面するバルコニー側の空間は、柱や長押が壁の表面に現れ、まるで和室のようなデザインです。

一方の部屋の腰壁は大人の肩ぐらいの高さで作られており、椅子式の暮らしに似合う空間になっています。

和と洋を対立させるのではなく、ある時は主従をつけ、ある時は融合させる。武田五一の手腕によって、ふたつの相対する要素が交わりモダンな美しさとして見事にまとめ上げられているのです。

3.清水寺も、八坂の塔も。東山から京都を一望する望楼を特別案内

ぜひ現地で見てほしい!望楼からの眺望

建築ツアーのクライマックスは、五龍閣の頂部に位置する「望楼(ぼうろう)」です。3階からさらに上へとつながる細く急な階段。それを登りきった先に待っているのが、東山から京都中を見渡す360度のパノラマビュー。思わず感嘆の声をこぼさずにはいられないほどの絶景です。

京都中を一望し、すぐ目の前には「清水寺」や、「法観寺・八坂の塔」がそびえ立ちます。
東山の傾斜地に建つ邸宅だからこそ享受できるこの眺望は、まさに選ばれた者だけの特権だったことでしょう。実際の景色は現地を訪れた時のお楽しみ。そして、この望楼の上にかつては「風見鶏」が飾られていました。現在は意外なところに置かれているので、現地で拝見しましょう。一人の起業家が自邸にこれほどの物見台を設けたという事実に、当時の松風嘉定の並々ならぬ気概を感じる特別な空間です。

建築から読み解く、京都というまちの歩み

武田五一が五龍閣で実現した「セセッション」とは、単なる新しい装飾の導入ではなく、伝統的な歴史主義からデザインを解き放ち、新しい時代の建築を模索する試みでした。五龍閣が時代を超えて今なお人々を魅了しているのは、感覚的な和洋の混ぜ合わせではなく、武田の学術的アプローチによる緻密な設計があったからこそと言えます。

京都大学建築学科の初代教授を務めた武田は、教育者として教壇に立つ傍ら、京都府立図書館やフォーチュンガーデン京都など、市内に多くの名建築を遺しました。最先端の建築知見が集まる「学術都市」であり、同時に伝統が息づく京都という地だったからこそ、和と洋とモダンを融合させていく困難な挑戦も可能だったのです。

現在、この貴重な建物は「清水順正おかべ家」が受け継ぎ、大切に保存・活用されています。「100年以上もの時をこの場所で重ねてきた建物が博物館のような形ではなく、現在も“生きた建築”としてお迎えできることを誇りに思います」。そう話すのは、清水順正おかべ家の副店長を務める岩井さん。かつての起業家が夢見たモダンな暮らしの息吹は、今もこの空間の中に静かに、しかし力強く息づいています。

さらに、今回のツアーについて、五龍閣の運営統括を行う井上さんはこう話します。「これまでは建築に宿るコアな部分を伝えきれなかったのですが、建築ツアーではじっくりとその魅力を味わうことができる。武田五一が100年前にヨーロッパから持ち帰り日本で育んだ建築の思想と意匠がオリジナルの状態で現代を生きている姿を、世界中の方に見ていただきたいです。」

一軒の邸宅を深く読み解くことは、京都というまちに脈々と流れる挑戦の心意気をたどることに他なりません。五龍閣の建築ツアーは、目の前にそびえる建物のさらに向こうへ広がる京都の奥深い文化の層に触れる特別な体験です。

  • 参考文献

    今村嘉宣『松風の創業者 松風嘉定について 美術陶磁器から人工陶歯まで』(国際歯学士学会日本部会第46巻1号)
    矢ケ崎善太郎『東山大茶会の会場となった建築・庭園の所在地と造営時期 : 東山大茶会に見る近代数奇空間の研究』(日本建築学会計画系論文集第515号)

企画:建築ツーリズムセンター事務局
執筆・編集:河井冬穗、窪田令亜(合同会社バンクトゥ)
写真:渡邊力斗
監修:石川祐一、清水順正おかべ家

開催概要・申し込み

【参加費】 2,500円(税込)

【定員】 10名

【所要時間】 60分

【コースルート】 五龍閣(外部・内部/1階、2階、3階および望楼) → (解散)靴を脱いで上がる場所あり

【言語】 日本語

【建築情報】
五龍閣(旧松風嘉定邸)
竣工年|1920(大正9)年頃
用途|住宅(現在はカフェとして活用)
構造・規模|木造・地上3階 塔屋付
設計|武田五一
文化財情報│登録有形文化財

【公式サイト】 https://www.goryukaku.com/

【連絡事項】
靴下を着用してご参加ください。
写真撮影:可
ブログ・SNS上での公開:原則可。ただし望楼部分のみ不可
使用可能なお手洗い:あり

※ツアー開始10分前までに集合場所にお越しください。
※雨天決行です。
※写真撮影:撮影・SNS投稿ともに原則可。ただし望楼部分および望楼から周辺を撮影されたお写真については、他施設や地域にお住まいの方にご配慮いただき、公開はお控えくださいますよう、お願いいたします。
※ガイドや他の参加者の様子を撮影・録音・録画することはお控えください。
※中学生以下は、保護者1名につき1名まで同伴無料。2人目からは「大人(高校生以上)」の参加費が必要です。

例:
大人1名+お子さん1名同伴の場合…「大人(高校生以上)1枚」「子ども(中学生以下)1枚」でお申し込みください。
大人1名+お子さん2名同伴の場合…「大人(高校生以上)2枚」「子ども(中学生以下)1枚」でお申し込みください。
大人2名+お子さん2名同伴の場合…「大人(高校生以上)2枚」「子ども(中学生以下)2枚」でお申し込みください。

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